近藤さん「それでは、お鉢めぐりに行かれる方は?」
ツアー8人のうち、手を挙げたのは、女性2人組(この方々は、ツアー前は1合目からの登ってきたほど健脚!)、僕、そして、、、Oさん。やった! 行けるんだ。
ということで山頂のトイレに寄ってから(字を大きくした理由は後で)、お鉢めぐりスタート!! 気温17度。風はほとんどなし、周りの雲にも切れ目があって景色もいい、というこの上ない条件。唯一気になるのは、お腹が減っていることくらい(笑)
道幅が30cm位しかないところもあるため、基本的には時計回りに回ると決められていているそうだ。近藤さんのペースも早く、まさにデス・ゾーンの中でのサバイバル。でも、不思議と、僕にはもう高山病にならない自信があった。
お鉢めぐり開始後20分くらいで、山頂郵便局に着く。ここで売店もあったので、何が売っているのかな、何か持ち歩けるランチは? などと探しているときに、何気なく、ウエストポーチに入れてある財布を探したら、、、財布がない。頭をフル回転させて、最後に財布を触ったタイミングを思い出すと、お鉢めぐり出発前の、山頂のトイレだ。ああ、よかった、ならば戻れば絶対に届いているはず。僕はなぜかこれも確信して、最後の「剣が峰」に向かった。
さあ、いよいよ、剣が峰の手前、「馬の背」が見えてきた。距離100m、起点標高3,730m、終点標高3,770mと、40mも登り、平均傾斜角度は22.2度という、通称「日本で一番きつい上り坂」だ。30年富士山のガイドしてきた近藤さんでさえ、「ここは、毎回イヤですね~」と言っている。「みなさん、止まらず、一気に登ったほうがいいですよ。僕も、申し訳ないですけど、ノンストップで行きます。」
ふう。僕は、一つ息を吐いてから、近藤さん、女性2人組、Oさんに続き、一歩一歩登り始めた。3分の1までは普通に登れた。あれ? 今までの登山道は岩場が多かったし、しんどいけど、歩きづらいということはあまりなかったが、この馬の背は、細かい砂利道なので滑る。中腹位で、4人からどんどん遅れて、一人で足をズルズルさせて、進めない。むしろずり落ちるかも。ああ、進まない!
この登山で初めて「苦しい」と思い、下を向き歯を食いしばり、顔を歪めて、もがいていたら・・・涙が出てきた。なんでだろう。
父だ。昨年亡くなった父のことを、僕は昨日からまだ一度も思い出していなかった。でも、この瞬間に思い出し、今回の天気、条件、すべて、父がお膳立てしてくれたんだと気づいた。「お前はお前でこれからも人生楽しめ」父はそう言って、僕の背中を後押ししてくれた。親父、山、楽しいじゃん。
気づくと、僕は他の4人と同様、馬の背のゴール、3,770m地点まで上がっていた。サングラスをしていたので、他の人には気づかれなかっただろうが、僕は記念撮影待ちの列に加わりながら、そっと涙をぬぐった。