週末はWan・Can・Run!

イギリスのパブ・ビールにはまって本まで出してしまったが、娘が生まれてからは、飲みに行くとツマの冷たい視線が来るようになり・・・娘がパパから離れていく頃、念願のワンを迎えて、リュックに缶ビールを忍ばせて週末あちこち散歩の日々。イギリスを始めとするパブ情報のWebページはhttp://terryspub.nobody.jp/に引っ越し、休眠中。イギリスでのパブ旅については、こっちのほうに仮にアップしています。https://terryspub2009uk.hatenablog.com

「火花」を読みました

夏季休暇中は,杏葉の自由研究とかの宿題を手伝ったりが中心で,まったりとしていたのだが,たまたま近所の本屋に行ったら売っていたので,思わず買った。

買った理由は二つ。
一つ目はピース又吉にある程度興味があったから。Eテレの「オイコノミア」とか見ていたし,この人はどんなのを書くんだろう。
二つ目は,文学界が,今どんな感じなのかを知りたかったから。選考委員長の山田詠美が絶賛しているのをどこかで見たが,それほど評価されたのだったら,今の文学界をある程度投影するものなのではないか。ここ10年くらい芥川受賞作を読んでいなかったので,いいきっかけだとも思った。

火花

火花

読んだ感想としては,まずはどちらの目的も果たせたかな,と。

ピース又吉について,というより,今のお笑い界の厳しさ,そしていかに皆が真摯に笑いを追求しているかがわかった。そして,又吉は本が好き,というのも,この本の文体を見れば伝わってくる。「判然としない」など,これまでの純文学作家が使ってきた表現がときどき見えた。しかし,全体としてはそういった小手先の表現でなく,主人公の心象描写には又吉オリジナルのものがあり,「あ,この表現は又吉節ってやつなんだろうな」と思えた箇所が4,5箇所あった。こういう表現を紡ぎだすのは並大抵ではできないと思う。

今の文学界(ここでいう文学界は今回話題になった文藝春秋の文芸雑誌ではなく,一般的な意味で使用)に関しては。。。これが芥川賞でいいのだろうか,と正直思った。
自分の勝手な解釈かもしれないが,芥川賞が,作品単体に送られるものの,実際はその作家の過去と未来に対して贈られるものだと思っていた。何度も候補になってやっと受賞する人がいるように,それまでどのくらい文学界に貢献してきたか。そして,これは「新人賞」という位置づけなので,これからどのくらい期待が持てるのか。まあ,歴代の受賞者を見てみても,受賞後に残らなかった人はゴマンといるけど。
同時受賞の羽田圭介直木賞東山彰良を読んでいないのに判断してはいけないのだが,「火花」を読む限り,又吉にそこまで文学界を背負わせていいのかな,と思った。
乱暴な言い方をすると,何かを一度極めた人で,多読の人なら,1回は小説が書けると思う。けれど,「1回書けた」と「職業作家としてコンスタントに書いていく」のは,蟻と地球くらい違う。
この「火花」はもちろん単体としては魅せどころ満載だし,これをあの又吉が書いたと思うと,思わず賞でも出したくなる。しかし,芥川賞審査員たちは,又吉がこの先ずっとこのレベルの作品を,5とか10本とか,いわゆる職業作家として書くことが可能だと思っているのだろうか。それが知りたい。

ちなみに,芥川賞受賞作ってどんなのがあったっけ,と思い出してみると。。。
http://www.bunshun.co.jp/award/akutagawa/list1.htm
歴代受賞作で,自分が読んだのは,以下だ(古い順)。

安部公房「壁」
大江健三郎「飼育」
丸山健二「夏の流れ」
丸谷才一「年の残り」
田久保英夫「深い河」
宮原昭夫「誰かが触った」
中上健次「岬」
村上龍限りなく透明に近いブルー
三田誠広「僕って何」
宮本輝「螢川」
池澤夏樹スティル・ライフ
小川洋子「妊娠カレンダー」
藤原智美「運転士」
奥泉光「石の来歴」
笙野頼子「タイムスリップ・コンビナート」
辻仁成「海峡の光」
柳美里「家族シネマ」
平野啓一郎日蝕
町田康「きれぎれ」
吉田修一パーク・ライフ
金原ひとみ蛇にピアス
綿矢りさ蹴りたい背中
阿部和重「グランド・フィナーレ」

中上健次までは,すごく「個性的」で「濃い」。奥泉とか笙野も「骨太」で「密度が濃い」物語の作り手。そのあとは,綿矢とか「軽くて時代を映す」ようなのがときどき受賞している。「火花」もそういう流れの一つになるのかもしれない。

読むかどうか迷っている人には,こう言おうと思います。

又吉とか,お笑いに興味がある人には,十分に楽しめる内容です。だけど,「純文学」にどっぷり浸かりたい人なら,必ずしもこの作品でなくてもいいような気がします。

【お断りとお詫び】
本日書いた内容は,あくまで個人的な感想であり,誰かを批評したりするつもりでは全くありません。自分の無知や思い込みから,まったく見当はずれのことを書いている可能性もあります。悪気,悪意など一切ありませんので,戯れ言だとご理解をいただけると助かります。